大腸癌はリスク抑制が比較的容易な癌腫のひとつです。とはいえ「定期的に検査を受けていれば」の話なのですが…
本稿では、大腸癌の特徴とリスク抑制の方法について、みなさんと情報を共有いたします。

大腸癌の特徴

多くの大腸癌は、その発生過程が段階的であると言われています。まず大腸に腺腫(ポリープの一種)という組織が発生し、次第にそれが癌化するというものです。これをadenoma-carcinoma sequence(ACS)といいます。

一方で、最初から癌細胞が発生するというパターン(de novo癌仮説)もあるとされていますが、大腸癌についてはACSによる癌の発生が多いというのが一般的な論説です1)

1) Jass Jr, et al. Gastroenterology, 123: 862-876 (2002)

大腸癌のリスク抑制/大腸ポリープ切除

大腸ポリープという言葉を聞いたことがある方、あるいは既に大腸ポリープを切除した経験をお持ちの方も少なくないと思います。

ACSのできるだけ早期の段階で大腸ポリープを切除すれば、進行癌へ進展するリスクを抑制できます。大腸ポリープを切除するのはこのためです。

なお、大腸ポリープには切除する必要性が低いものもあります。切除すべきポリープかどうかを判断するために、ポリープの表面に特殊な光を当てながら、内視鏡先端のズームレンズで拡大して観察します。

ポリープ切除は出血や腸管穿孔のリスクを伴います。切除する必要性が低いポリープを切除することは、患者さんに不要なリスクを負わせてしまうことになります。また不要な医療費を発生させることにもなります。切除の必要性を評価せずに「ポリープがあればとりあえず切っておく」というのは、あまり合理的ではないかもしれません。

反対に、残念ながら既に癌化していて深達度が深く、内視鏡で切除することが適切でないポリープもあります。あるいは内視鏡で切除できるとしても、入院施設のある病院にてESDという方法で切除すべきポリープもあります。

内視鏡を握る医師は、ポリープを見逃さず、見つけたポリープを適切に評価して方針を立てるべく、最善を尽くします。

大腸ポリープ切除の実際

続いて、大腸ポリープ切除の実際を簡単にご紹介します。
大腸ポリープ切除の方法は複数ありますが、今回はEMRという方法をご紹介します。

このように、ポリープを見つけて質的評価を行い、必要な下準備をしてから、切除と止血確認を行います。

切除した大腸ポリープは回収して病理検査に提出します。
上の写真のポリープは「高異型度腺腫」という病理診断で、腺腫のうち癌化のリスクが高いとされるものでしたが、断端陰性(切断面に腫瘍の露出がない=取り残しがない)であり、治癒切除となりました。

このポリープの切除に要した数分間が、患者さんのその後の人生を大きく分けたかもしれません。

でも大腸カメラは大変/便潜血検査

定期的な大腸カメラによって大腸癌のリスクを下げられることはご理解いただけたのではないかと思います。

でも大腸カメラを受けるのって大変ですよね。下剤を飲んで、検査当日は食事も摂らず、場合によってはカメラ挿入時にお腹が痛むこともあります。

そこで次善の策として、便潜血検査という検査があります。
便潜血検査は、少量の便検体を採取し、便中に血液の混入がないかを調べる検査です。2日分の検体を提出する「2日法」というのが主流になっています。
この検査は腺腫の段階(ACSの早い段階)での病変検出を狙うのには向かず、癌化した腫瘍をできるだけ早期に発見するという意味合いが強い検査です。

この検査の最たる利点は、体への負担が少ないという点です。便検体を少量採取して提出するだけで検査ができます。
問題は感度(癌があるときにきちんと陽性と出る確率)と特異度(癌がないときにきちんと陰性と出る確率)なのですが、進行癌に対する感度が65.8%、特異度が94.6%と報告されています2)
感度が低いということは「検査で陰性でも安心しにくい」ということで、特異度が高いということは「検査で陽性ならまずい」ということです。

余談

この枠内は、科学的根拠はないので私見としてお読みください。

個人的には、便潜血検査(2日法)には偽陽性(検査で陽性でも病気がないこと)が多いという印象を持っています。免疫法という比較的に偽陽性が少ない検査方法であったとしてもです。
しかし上記の感度65.8% 特異度94.6%という数字は、この感覚とは正反対のことを示しており、むしろ偽陰性(検査で陰性でも病気があること)が多いことを示唆しています。

私の臨床医としての体感と上述の数字には乖離があり、少し違和感を感じるということを私見として申し添えておきます。

一方で、大腸カメラの進行癌に対する感度は79~100%といわれています3) 4) 5)
大腸カメラは進行癌に対する感度が極めて高く、また腺腫の段階でも腫瘍を発見でき、さらにその腫瘍を即座に切除できることがあります。検査精度および問題解決能力において、やはり便潜血検査は大腸カメラに次ぐ次善の策という位置づけと考えます。

しかしながら、大腸カメラは検査に伴う負担が大きいので、検査負担の軽さから便潜血検査を選択することにも十分に合理性があると思います。

2) T. Morikawa, et al. Gastroenterol. 129: 422-428 (2005)
3) A. Graser, et al. Gut. 58: 241-248 (2009)
4) van Rijin JC, et al. Gastroenterol. 101: 343-350 (2006)
5) de Zwart IM, et al. Clin Radiol. 56:401-409 (2001)

まとめ

大腸癌は段階的に発生することが多いため、比較的に早期発見が容易です。
定期的な大腸カメラ、あるいは便潜血検査を受けておくと、健康寿命の大きな分岐点に気付くことができるかもしれません。

  • 毎年の便潜血検査(札幌市では大腸がん検診で毎年受けることができます→詳細はこちら
  • 便潜血が陽性なら大腸カメラ
  • 便潜血陰性でも、できれば2~3年に1回の大腸カメラ

これらを受けておくと、良いことがあるかもしれません。

おまけ

ご契約中の生命保険がある場合、大腸ポリープ切除が保険金の支給対象になることがあります。
大腸ポリープを切除した方、あるいは大腸カメラを受けようと考えている方は、ご契約中の保険内容を確認してみると良いかもしれません。