当院では新型コロナワクチン予防接種を行っておりません。
その理由を一言で表すと「全貌が知れないから」なのですが、これについて下記でご説明します。
まず大前提として、ワクチンを含む全ての薬剤はrisk-benefitの観点から評価します。すなわち薬剤の利益/不利益です。
例えば抗がん剤を例にとると分かりやすいかもしれません。抗がん剤には多くの重大な副作用という不利益がありますが、術後の再発率低減や生存期間の延長などの利益があり、利益が不利益を上回ると考えられる場合に使用されます。
また2つ目の大前提として、医学に限らず科学の世界では「正しさ」は常に暫定的であるという側面があります。コペルニクスやガリレオ・ガリレイの地動説などはその典型例ではないでしょうか。当時は天動説が正しかったのです。その「正しさ」を目の前の現象に照らしたときに「どうも説明がつかない。もしかして誤りがあるのでは?」という懐疑が生まれ、当時は正しいとされた論説が後に誤りであったと判明することがあります。
最近の身近な話題でいえば、急性膵炎の治療ガイドラインが2015年→2021年で大きく変更になりました。従来の治療の多くが無益、あるいは有害な場合さえあると訂正されたのです。現在の科学的な「正しさ」はこうした紆余曲折の末に成り立っていて、人類の英知は大したものだと感じることもあれば、この程度なのだなと感じることもあります。
少し話が逸れてしまいました。
では、新型コロナウイルスワクチンの利益/不利益に話を戻します。
新型コロナウイルスワクチンの利益
新型コロナウイルスワクチンの利益
- COVID-19の発症予防1)2)
- COVID-19の重症化予防1)
1) Lindsey R. Baden, et al. N Eng J Med 384: 403-416 (2020)
この論文内では「一時的な副反応を除いて安全上の懸念は同定されず(Aside from transient local and systemic reactions, no safety concerns were identified.)」と括られています。
2) Robert W. Frenck Jr., et al. N Engl J Med 385: 239-250 (2021)
この論文内では「重大な有害事象はほとんどなく(2回目接種から1ヶ月間で0.4%以下)、ワクチンと関連があると考えられるものはなかった(Few participants in any cohort (≤0.4% through 1 month after dose 2) had serious adverse events, and none were considered by the investigators to have been vaccine-related.)」「死亡例の報告はなかった(No deaths were reported.)」と記されています。
上記の2つの論文は厚労省が「新型コロナワクチンに関する資料」として示している文書に含まれています。なお、1)2)いずれも文中のlimitation(研究の限界)において「長期的な効果と安全性については未知」としています。
新型コロナウイルスワクチンの不利益
新型コロナウイルスワクチンの不利益
- ワクチン接種との関連が示唆される有害事象の学術的な報告が多数あります。
- 報告されている有害事象は、血小板減少、心筋炎、神経障害、血管炎、血栓症など、多岐にわたります。
- このうち、生涯におよび続く疾患や、死亡例の報告もあります。
- 重大な副反応の頻度は不明です。
※「医中誌」という日本国内の医学系論文のポータルサイトで検索しました。
無数の症例報告があるので、個別の引用元の記載はここでは割愛します。検索ワードは「COVID-19 ワクチン 接種後」「SARS-CoV2 ワクチン 接種後」です。
特筆すべきは、ワクチン接種との関連が示唆される有害事象の報告が2022年に少しずつ始まり、2023年から2024年にかけて急激に増加していることだと思います。2020年から2021年頃に示されたワクチンの「正しさ」を、4年間の経験を踏まえて改めて検証するような視点が持たれています。
また、報告されている有害事象の多くが自己免疫による機序で説明可能なことも着目すべき点です。
新型コロナウイルスワクチンはmRNAワクチンという種類のワクチンです。このタイプのワクチンは、接種したヒトの細胞内に入り込み、その細胞の表面にウイルスのタンパク質を表現します。この細胞を自身の免疫システムがウイルスと見なして攻撃することで、感染の経験を疑似的に獲得(免疫記憶)し、実際の感染に備えるという仕組みになっています。
自己免疫性疾患は自身の組織を自身の免疫システムが攻撃してしまう病態ですから、理論上、mRNAワクチンの仕組みと紙一重といえるかもしれません。
また、mRNAワクチンは入り込む組織を選びません。このため副反応の現れる臓器が多岐にわたっているという可能性があります。
一方で、ワクチン接種と重篤な副反応との関連性を正確にまとめたデータはないという現状もあります。
現時点では、様々な有害事象の報告については「ワクチン接種と関連があるかもしれない」「ワクチンの副反応の可能性がある」というのが正確な表現だろうと考えます。
これが冒頭に書いた「全貌が知れない」という言葉の意味です。
当院が新型コロナウイルスワクチン接種を行わない理由
上記のような新型コロナウイルスワクチンの利益と不利益を比較し、当院はワクチン接種を行わないという結論に至りました。
新型コロナウイルスワクチン接種を行わない理由
- ワクチンを打っていてもCOVID-19に罹患します。
- ワクチン未接種あるいは接種後1年以上が経過している患者さんを含め、COVID-19が重症化するというケースを日常診療でほとんど見ません。
- 副反応が予測不能で、重大かつ生涯にわたって継続する可能性を否定できません。
- 健康被害救済制度の信頼度が高くありません。申請から1~2年間の待機期間があり、医師や医療機関が「ワクチンとの関連性を否定できない」と報告した場合でも、行政から否認されることがあります。
「不利益が大きい」というよりは「利益が小さい」という点と、不利益の可能性が現実となった場合に被害が甚大であるという点で判断しました。
罹患しても通常は数日後に治る疾患に対して、予測不能な副反応の可能性があるワクチンを接種することはないと考えます。
ただし、維持透析が必要な慢性腎不全の患者さんや、日頃から吸入が必要な気管支喘息や肺気腫の患者さんに関しては、ワクチン接種に一定の妥当性があるとも考えます。このような患者さんはCOVID-19が重症化する可能性が通常より高く、ワクチン接種の利益が大きくなる可能性があるためです。
当院では新型コロナウイルスワクチン接種を行いませんが、ワクチン接種を受けるという選択を否定するものではありませんので、接種希望の方には近隣で接種可能な医療機関をご案内します。
レプリコンワクチンについて
2024年10月の定期接種から、COVID-19の予防接種としてレプリコンワクチン(コスタイベ®)の供給が開始されます。
レプリカ、つまり複製という意味ですが、mRNAワクチンに細胞内で自己増幅するコードを付け加え、従来のmRNAワクチンよりも長期間に亘ってスパイクタンパクを表現し続けるように設計されたワクチンです。少量の接種で良いことや、予防効果が持続する期間が長いことなどが特徴として挙げられています。
このワクチンはアメリカの創薬ベンチャー(Arcturus Therapeutics社)が開発し、2021年8月から12月にかけてベトナムで臨床試験を行った後、2022年11月からは日本国内でも第Ⅲ相臨床試験を行い、2023年11月の薬事申請・承認を経て、Meiji Seika ファルマ社が製造販売するものです。いずれの臨床試験でも有効性と安全性、さらには既存のCOVID-19ワクチンに対する優越性が確認されたと発表されています。
しかし、既存のmRNAワクチンでさえ当初想定していなかった副反応の可能性について症例報告が集まってきたばかりです。細胞内で自己増幅するという性質のmRNAワクチンに対しては、当院は当面、静観することにします。
またこのワクチンは全世界で日本国内でのみ供給されます。政治的視点や企業的視点からの理由があるのかもしれませんが、純粋に科学的視点から見ると「既存のワクチンに対して優越性があるのに、なぜ日本だけでの供給なのだろう」という疑問が残ります。
当院の懐疑的な懸念が杞憂であることを願いつつ、新型コロナウイルスワクチンの全貌がもう少し見えてくるまで、患者さんへの接種は控えさせていただきたいと存じます。