便秘症の治療方法が今と昔とで大きく違っていることをご存じでしょうか。
これを知らずに下剤を服用していると、数年~数十年のスパンで便秘が悪化していくかもしれません。
とても簡単な内容なので、ぜひ、便秘症および下剤についての知識を深めていただければと存じます。

下剤の種類

便秘症の治療を考えるにあたって、まず「刺激性下剤」と「非刺激性下剤」という2種類の下剤があることを知る必要があります。

刺激性下剤

  • 腸を刺激することで排便を促します。
  • 一般的には効果が高いです。
  • 依存性があり、長期的には便秘の悪化につながります。
  • できるだけ服用頻度を下げたい薬剤です。

非刺激性下剤

  • 腸を刺激せずに排便を促します。
  • 一般的には効果は穏やかです。
  • 依存性がなく、長期的に使用しても便秘を悪化させません。
  • 毎日の服用に適しています。

それぞれの代表的な薬剤は以下の通りです。

なお、市販の下剤、便秘用サプリメント、便秘用ハーブティーの多くには、刺激性下剤と同じ成分が入っています。
成分表示をご覧になり、センナ、ビサコジル、ピコスルファート、大黄(ダイオウ)などが含まれている場合は、刺激性下剤を含んでいます。

下剤の適切な使い方

この「刺激性下剤」および「非刺激性下剤」という2種類の下剤を使い分けることが大切です。

考え方はとてもシンプルです。
非刺激性下剤をベースとして使用し、刺激性下剤を必要なときのみ上乗せして使用する。原則としてそれだけです。
ケーキでいうところのスポンジが非刺激性下剤、イチゴが刺激性下剤です。
この下剤の使い分けは慢性便秘症診療ガイドライン2017にも明記されており、消化器内科医にとってはもはや常識となっています。

現在でもたまに見受けられるのが、刺激性下剤を毎日服用するという処方パターンです。刺激性下剤は腸を刺激して排便を促すため、服用当初の一時的な効果は高いことが多いです。便秘が解消されたように感じるかもしれません。しかしこれを続けていると、腸が徐々に刺激に慣れていきます。最初は効果的だった下剤の効果が次第に薄れていき、気が付いたころには下剤を服用しても便が出ないという状況に追い込まれてしまいます。

医師の視点からお伝えしたいこと

診療をしていて、下剤の処方って難しいなと感じることがあります。
上でもお伝えしましたように、刺激性下剤は効果が高いため、処方当初の患者さんの満足度が高いのです。これに対して非刺激性下剤は効果が穏やかなことが多いため、患者さんの満足度を高めにくいという側面があります。

特に刺激性下剤をこれまで服用してきた患者さんに「この下剤は将来的に便秘を悪化させるので、刺激のないタイプの下剤に変えましょう」とご提案した場合などは、下剤を非刺激性のものに変えてから便が出にくくなったとご指摘を受けることもあります。

患者さんの日々の満足度はとても大事です。しかし一方で、専門的な視点から患者さんの長期的な利益を守ることこそ医師の役割だろうという矜持もあるのです。

このあたりのバランスを取りながら、患者さんと相談し、処方薬を選択することとなります。

下剤以外の便秘症の治療方法

ここまでは下剤についてご説明してきましたが、下剤以外にも便秘症の治療方法はあります。
日常生活のちょっとした工夫で、便秘症が改善するかもしれません。

下剤以外の便秘症の治療方法

  • 便が硬い場合は水を多く飲みましょう。心不全や腎不全のない方は、1日1.5ℓ程度を目安にすると良いです。
  • 運動も便秘解消を促してくれます。ウォーキング程度の運動でも大丈夫です。座りっぱなしの姿勢が最も便秘になりやすいです。
  • 野菜を食べましょう。便が柔らかすぎても便秘になります。便に適度な硬さがあると腸の蠕動にうまく乗ってくれます。繊維質は便の骨格となり、便に適度な硬さを与えてくれます。
  • できれば腹筋をつけましょう。腹筋が厚くなって腹壁が固くなると、お腹の中のスペースが減ります。反対に腹筋が薄く腹壁が柔らかいと、お腹の中のスペースが広がり、大腸内に便が貯留する余地を与えることになります。
  • 腹筋と同じ理由で、肥満の方は便秘になりやすい傾向にあります。一朝一夕のことではありませんが、腹囲を引き締めることで便秘は解消されやすくなります。

便秘でお悩みの方のご参考になれば幸いです。
医師のお力添えが必要な場合は、お気軽に当院にご相談ください。