風邪をひいたとき、他の症状はすっかり良くなったのに咳だけがしつこく残ることがあります。
実はこれは風邪が長引いているわけではありません。この長引く咳について、少し詳しくご説明します。
正体は喘息

いきなり結論ですが、風邪のあとのしつこい咳は喘息の一種です。と言っても、いわゆる持病としての喘息とは違うタイプの喘息です。
風邪をはじめとし、喫煙、気温や湿度の変化、飲酒など、ランダムな外部からの誘因で発症する喘息があります。
これにより、風邪のあとに咳だけが残ってしまうことがあるのです。
喘息の種類
風邪のあとの咳で受診して喘息と診断されても、「喘息なんて持っていないけどな」と思われるかもしれません。
この理解のためには、喘息にはアトピー型喘息と非アトピー型喘息という2つの種類があるという認識が必要です。
アトピー型喘息 | 非アトピー型喘息 | |
原因 | 特定のアレルゲン | 特定のアレルゲン以外の誘因 |
即時型アレルギー(IgE)の関与 | あり | なし(あるいは少ない) |
年齢 | 小児に多い | 成人に多い |
発症様式 | 発作的 | 慢性的 |
実際にはこのどちらに分類するか悩ましい喘息もありますが、風邪のあとの咳は非アトピー型喘息に分類されます。表中の「原因」の項目にある「特定のアレルゲン以外の誘因」が、この場合は風邪ということになるわけです。
特定のアレルゲンで発症するアトピー型喘息は、そのアレルゲンを吸入したときに恒常的に発症するため、患者さんと喘息が1:1で対応する「持病」という認識を持たれます。
これに対して、非アトピー型喘息のきっかけはランダムなので、発症したりしなかったりします。このため「持病」という認識にならないのです。
そこにウイルスはいるのか
このように、最初は風邪の咳だったのが次第に喘息に移行しているというのが、しつこく長引く咳の正体です。風邪をひいて他の症状が治ったのに咳だけが1週間も残っているような場合は、もはやそこにウイルスはいません。風邪は治って喘息が残っているという状況です。
非アトピー型喘息の治療

非アトピー型喘息の治療は、アトピー型喘息の治療とよく似ています。
いずれもICS/LABAあるいはICS/LABA/LAMAという種類の吸入薬が効果的です。これに内服薬を併用することもあります。
しばらく吸入をしても咳が続く場合は、リフヌア®という慢性咳嗽の内服薬を使うこともあります。とても効果的な薬なのですが、6割の方に味覚障害が現れるという副作用があるため、その点で少し使用を躊躇うこともあります。なお、この味覚障害は服薬の終了とともに改善します。
副鼻腔炎やマイコプラズマ肺炎に注意
このように書くと簡単な治療のようですが、大切な注意点があります。
「本当に風邪は治っているのか」
これを見誤らないことが、意外と難しかったりします。
長引く咳には多くの原因が考えられますが、風邪のあとでは副鼻腔炎が咳を長引かせていることがあります。あるいは、そもそも風邪ではなくマイコプラズマ肺炎が長引いている可能性もあります。
副鼻腔炎やマイコプラズマ肺炎の治療は喘息の治療とは全く異なりますし、ともすれば喘息の治療をすると逆効果になることもあります。
実は微熱が続いていないか。熱はなくとも倦怠感が続いていないか。額や目の下が重いような感覚はないか。後鼻漏(鼻汁が喉に落ちること)はないか。黄色い鼻汁はないか。
そういったことに注意しつつ、喘息と診断した場合には吸入薬を使用すると効果的です。